借家権の相続

 家を貸していたAが先日亡くなりました。Aは独身で両親はすでになく、別居している姉Dと、同居していた従姉妹B、Cがいます。B、Cは引き続き借家に住むことを希望しています。他方、Dも借家権を相続したことを主張してきています。こういう場合はどうなるのでしょうか。

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 B、Cの姉妹は本件借家に引き続き居住していくことができ、家主であるあなたはB、Cに明渡しを求めることはできないものと解されます。
 相続人DもB、Cに対し本問の借家の明渡しを求めることはできません。
 借家権も財産権の1つであって相続の対象となります。
 被相続人に姉がいる場合従姉妹は相続人にはなりません。したがって借家権を相続することはできません。
 被相続人の姉であるDが法定相続人として、借家権を相続します。
 しかし、家主は披相続人の同居人B、Cに対して借家の明渡しを求めることはできず、相続人Dも同様明渡しを求められないものと解されます。
 借家人が死亡した場合、借家人と同居していた者が、引き続き借家に居住していくことができるかが問題となります。
 借家人に相続人がいる場合、いない場合に分けて考えていくことにします。
 借家人に相続人がいない場合には、借家人の内縁の妻、夫、事実上の養子は、居住用建物の賃借権を承継することができることが借地借家法で認められています。これは旧借家法の昭和41年一部改正で新設された旧借家法7条ノ2をそのまま引き継いだ規定で、旧借家法と内容的には同じものです。
 しかし、内縁の妻、夫、事実上の養子以外の同居人については、この借地借家法36条の規定によることはできません。けれども死亡した借家人の同居人は、生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者、その他相続人と特別の縁故があった者などとして特別縁故者への相続財産の分与によって借家権を承継する途があります。
 本問のように他に相続人が存在する場合については、対家主の関係と対相続人の関係とに分けて考えていくことにします。前者は家主は明渡請求できるか、という問題、後者は相続人は相続人ではない彼相続人の同居人に対し借家の明渡しを請求できるのか、という問題に集約されます。
 対家主関係では、家主は同居人に対し借家の明渡請求はできないものと解します。
 相続人ではない死亡した借家人の内縁の妻などは、相続人の相続によって承継した借家権を援用して家主に対して借家に居住することを主張できる、という判例理論があります(最判昭42.2.21民集21巻1号15頁、最判昭42.4.28民集21巻3号780頁、最判昭37.12.25民集16巻12号2455頁)。最高裁の判例は内縁の妻、夫、事実上の養子についてのものしかありませんが、同法理はこれら以外の者についても適用があって有るべきものと解されます。下級審判例には同居の被相続人の兄弟について、相続人の借家権を援用して家主に対抗できるとしたものがあります(京都地判昭25.5.31下民集1巻5号850頁)。
 本問のような従姉妹についても、このような援用理論が適用されうるものと解されます。したがって被相続人と同居していた従姉妹B、Cは相続人Dの相続した借家権を援用して家主に対抗できるものと解されます。
 それでは相続人が相続を放棄したり、借家権を放棄したときはどうなるか、という問題もあります。これらの場合、援用される借家権がなくなってしまうからです。この点については「そのような放棄は、共同生活を営んでいた者との関係でその生活をくつがえすもので無効と考える。それは恰度適法な転借人があるのに賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約を合意解除しても、転貸借をくつがえすことができないのと同断である」(大阪地判昭38.3.30判時338号34頁)と解すべきでしょう。
 対相続人の関係では、相続人は借家権者であるのに対し、内縁の妻などの同居人は被相続人と同居していた関係にはあっても借家について権限を有しているわけではありません。
 そこで相続人が内縁の妻などに相続した借家権を根拠に明渡請求をしてきた場合に、これに応じなければならないかが問題となります。
 判例は、このような相続人から内縁の妻などに対する明渡請求に対しては権利の濫用にあたるとして許されないものとして内縁の妻などの居住を保護しています(最判昭39.10.13民集18巻8号1578頁)。
 本問についていえば、借家権の相続人Dは、B、Cの姉妹に対し、自己の相続した借家権を根拠に借家の明渡請求をすることは権利濫用にあたり許されない、ということになります。

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