抵当権設定後の土地の短期賃借人に建物買取請求権は認められるか

 短期賃借人は、抵当権付土地を賃借し、建物所有を目的とした期間5年以下の短期賃貸借契約を締結した上その土地上に建物を建築しました。
 その後、抵当権が実行され、競売によりこの土地を取得した競落人が期間満了を理由に短期賃借人に土地の明渡しを求めたところ、短期賃借人から建物の買取りを請求されました。

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 借地借家法13条は、借地権の期間満了に際し、更新されないときは、借地人に建物買収請求権を認めています。一般に、建物買取請求権は、更新請求権のあることが前提とされていますが、本来、抵当権者に対抗できないにもかかわらず、民法395条により特別に対抗できるとされている短期賃借人については、差押えの登記後は更新請求権はないと解されており、この関係で、借地借家法13条による建物買取請求権が認められるかが問題となります。
 借地借家法13条は、旧法下で争いのあった建物買取請求権の要件の一部について明確にしましたが、短期賃貸借との関係については特に規定を明確化することをしませんでしたので、旧法下のこの点に関する判例は現法においてもそのまま妥当すると考えてよいでしょう。
 [土地の短期賃貸借と借地借家法9条及び3条]
 本事案のように、既に抵当権の設定のある土地につき、建物所有目的で期間5年以下の賃貸借契約を締結した場合に、借地借家法9条及び3条の規定により、期間は30年に変更され、そもそも民法395条による保護を受けられないのではないかとの疑問が生じます。最高裁は、期間の定めのない宅地賃貸借の存続期間は、借地法の規定により30年となるから、民法395条の短期賃貸借には該当せず抵当権者に対抗できないとしました(最判昭45・6・16判時600・84)。しかし、5年以下の期間を定めてした賃貸借契約については、後述する判例を含め、最高裁はこの点を問題とすることなく民法395条の適用があることを前提として判断をしており、一般にも、借地借家法9条及び3条の適用はなく、期間5年以下の借地契約として有効に成立し、民法395条の適用があると解されています。抵当権と用益権の利害調整を定めた民法395条の趣旨や当事者の意思解釈から、この結論は妥当といえますが、そうすると、後に抵当権が債務の弁済等により消滅した場合に、さらにまた、賃貸借成立後の後順位抵当権者が存在する場合に、賃貸借契約の期間がどうなるのかについて困難な問題が生じます。建物保護の観点からは、先順位抵当権が消滅した場合には借地借家法9条及び3条の規定により期間は30年に変更されることになると思いますが、そうすると、先順位抵当権者との関係でのみ期間5年となる借地契約を認めることとなり、これは、抵当権登記後に通常の期間の借地契約をなした場合には5年以内であっても抵当権者に対抗できないとする最高裁判決(最判昭38・9・17民集17・8・955)と矛盾することとなりますし、また、後順位抵当権者との利害調整にも困難が生じることとなりますから、このような解釈はとるべきではありません。このような賃借人は、抵当権設定を知りながらあえて5年以内のみの保護を求めて短期賃貸借契約を締結するのであり、そうであるからこそ、借地借家法9条及び3条よりも民法395条を優先してその保護を与えているのですから、このような賃貸借は、一時使用目的のものとして、先順位抵当権が消滅した後も、借地借家法の適用のない賃貸借契約として存続すると考えるべきでしょう。
 [建物買取請求権の有無]
 民法395条の適用のある短期借地契約について、借地借家法5条及び6条を無条件に適用し、結果的に借地人に長期の保護を与えることとなりますと、不当に抵当権者を害することとなります。そこで、最高裁は、抵当権実行による差押えの効力が生じた後に期間が満了した場合には、借地法6条(借地借家法5条及び6条)の適用はなく、その更新を抵当権者に対抗できないと判示しました(最判昭38・8・27民集17・6・871)。ところで、借地借家法13条は借地権の期間満了に際し更新されないときは借地人に建物買取請求権を認めていますが、一般に建物質取請求権は更新請求権のあることが前提とされていることとの関係で、抵当権実行による差押えにより更新を対抗できない短期賃借人に建物買取請求権が認められるかが問題となります。民法395条の定める抵当権と用益権の利害の調整において、どの程度まで用益権を保護すべきかの問題でもありますが、最高裁は、もし建物買収請求権を認めると土地の競落価格の低下は免れないところ、抵当権者はあらかじめどの程度の建物が建てられてどの程度土地の競落価格が低下するかが予測できないことから、取引の円滑な運用が阻害されるとの理由で、建物買取請求権は認められないと判示しました(最判昭53・6・15)。すなわち、単に土地の競落価格が低下するというのみであれば、それが予測可能である限り抵当権者としてはあらかじめその負担を見込んで担保価値を評価すればよいともいえますが、予測不可能となれば、抵当権者は担保価値を評価できず、金融取引が阻害されることになります。
 冒頭の紛争の場合、賃借人に建物買取請求権が認められる余地はなく、競落人としては賃借人に建物収去土地明渡しを求めることができます。
 土地を競売により取得しようとする場合に、土地上に第三者所有の建物があり、その明渡しを求める場合には、建物買取請求権の問題のみならず種々の複雑な法律問題が発生するおそれがありますから、慎重に検討し、必要に応じて弁護士に依頼することが望ましいでしょう。なお、建物買収請求権の問題に限れば、抵当権設定後の賃貸借であることが確認できれば建物買取請求権が認められないことは判例上確定していますので、この点の確認が重要です。
 借地法4条2項は、建物質取請求権の前提となる借地権消滅事由については特に規定していなかったため、存続期間満了の場合の他、債務不履行による解除や合意解除により借地権が消滅した場合にも建物賛歌請求権が認められるかが争われ、判例は存続期間満了の場合に限ると解していましたが、他の場合にも認めるべきとする学説もありました。借地借家法は、この点を明確にし、建物買収請求権は存続期間満了の場合に限られることとなりました。
 なお、質取請求が認められるのは、借地権者が権原により土地に附属させたものですから、木造に限るとの特約に反して築造した堅固な建物など、権原のない場合には建物質取請求権は認められません。また、制度の趣旨から、建物買取請求権が認められるのは、一般的客観的に便益を与えるものに限られ、特殊な用途にのみ使用できるものや個人的趣味にのみ適するものについては買取請求は認められません。

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