境界確定訴訟で取得時効の主張をするとどうなるか

 隣地所有者から境界確定訴訟を提起されました。しかし、相手の所有だという土地は、私が二〇年以上も前に購入して、それ以来使用してきた土地です。どのような主張ができるでしょうか。

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 時効取得した土地が原告の土地の全部なら、時効取得の主張をして、却下の判決を得ることができます。一部の場合は、当事者適格が認められますので、却下は求められません。
 ただ境界確定訴訟は、所有権の確認を目的とするものではありませんので、時効取得を主張しても、これに基づく本案の裁判はしてもらえません。したがって、時効取得に基づく本案の裁判が必要なら、所有権確認なり登記移転請求の別訴か反訴を提起すべきです。
 [取得時効]
 売買という所有の意思が認められる手段で占有を始め、以来二〇年以上も占有を続けてみえたというのですから、取得時効の効果は認められるでしょう(民一六二条・一八六条・五五五条)。土地の取得時効についての詳細な解説は別項を参照してください(一四一頁以下)。
 しかし、境界確定訴訟は、通常の一般民事訴訟とは異なる性質の訴訟ですので、取得時効の主張が境界確定訴訟でどのような意味を持つかを以下で検討してみます。
 [境界確定訴訟の性質]
 取得時効の主張が境界確定訴訟でどのような意味を持つかを検討するについては、その前提として、この訴訟がどのような性質のものであるかを理解しておく必要があります。
 境界確定訴訟について、現在の判例・通説は、次のように解しています。
 自然状態の土地は、際限なく広がり区分できない。そこで、これを人為的な線で区画し、個別化してはじめて権利の対象となる。この区画するための公的制度として登記制度がある。登記制度上、土地は、各一筆の土地として特定の地番を付されて個別化されているが、このある地番を付された一筆の土地と他の地番を付された一筆の土地を区画する線(筆界)を境界という。したがって、境界は、公法上の線である。
 境界確定訴訟は、右境界を対象に、これが不分明となって、右境界によって隣接する相隣者間に紛争がある場合に、裁判所が、創設的に確定する裁判である。
 この訴訟は、対象が私人の自由に処分できない公法上の境界であるから、当事者の申立て(請求)に権利主張の意味はなく、また境界を確定するための要件となる法規も存在しない。裁判所は、当事者の主張に拘束されず、具体的事情を斟酌して、衡平の見地から裁量で、創設的に境界を確定する。したがって、境界確定訴訟は、当事者の権利主張が要件となる法規に照らして正当か否かを判断する訴訟事件ではなく、裁判所が裁判の形式によって行う行政(非訟事件)に該当する。ただし、手続は、形式的に訴訟事件の手続によっている。これを、形式的形成訴訟という。このように特殊な訴訟である境界確定訴訟が認められるのは、境界紛争がある場合、これを解決する手段が所有権確認訴訟だけだとすれば、同訴訟では、裁判所は当事者の主張に拘束され(民訴二四六条・旧民訴一八六条)、あるいは当事者が証明できない場合は請求棄却の判決をしなければならない。しかし、これでは境界紛争が存在するにもかかわらず解決されないままとなって、当事者にとって不利益となる。のみならず境界が不分明のまま放置されることは、公共の利益にも反する。すなわち、当事者の申立てに拘束されず、裁判所が創設的に境界を確定できる訴訟であるところに存在理由がある。現在、境界確定訴訟を認める実定法規はないが、この訴訟は、旧々民事訴訟法二二条一項の「経界ノ訴」、裁判所構成法一四条二号の「不動産ノ経界ノミニ関スル訴訟」として伝統的に認められて来た訴訟で、現在も右の必要性はなくなっていないので、この訴訟を求めることができる。右存在理由から明らかなように、境界確定訴訟は、所有権ないしその確認とは無関係な、別個独立した訴訟である。
 [実体関係上の意味]
 取得時効が主張される趣旨は、原告所有地も被告の所有地となったということ、すなわち所有権の主張です。
 しかし、境界確定訴訟は、先程述べましたように、所有権の確認とぱ関係なく、不明確となった地番と地番の筆界である公法上の境界を裁判所が確定するための裁判です。したがって、原告の申立てにも所有権主張の意味はありません。したがって、取得時効の主張をしても、一般民事訴訟でいう抗弁としてとりあげて審理をしたり、これに基づいた裁判をしてもらうことはできません(最判昭四三・二・二二民集二二・二・二七〇)。
 ただ、取得時効を主張するためには、その前提として長い間係争地を占有してきたという事実を主張することになります。ところで、裁判所が境界を確定するについては、土地の占有状態も重要な資料となりますから、占有状態の主張の意味は認められるでしょう。
 [当事者適格に与える影響]
 ところで、境界確定訴訟では、両当事者が問題となる境界によって分けられる相隣接他のそれぞれ一方の所有者であることが当事者適格の要件とされています。すると、被告が原告の土地の一部又は全部を時効で取得した場合には、原告の土地の一部又は全部が取得時効によって被告の所有となる結果、境界は被告所有地内に存在することになり、原告と被告は境界を接する相隣接地の所有者でなくなり、当事者適格を欠くのではないかということになります。だから、境界確定訴訟で取得時効の主張をすることは、当事者適格の要件を欠くから訴えは却下(境界を確定する裁判をしないという門前払いの裁判)してほしいという意味を持つことなります。
 ただ、被告が時効取得したかどうかは審理をした結果判明することです。審理をした結果、却下という門前払の裁判をされるのは、無駄骨を折ったという感はぬぐえません。
 従来、時効取得の主張が認められた場合には、当事者適格がなくなるから却下の裁判をするという考え(東京高判昭三七・五・三一下民一三・五・一一二二)と、被告が原告の土地全部を時効取得した場合と一部を時効取得した場合を分けて、前者は却下だが、後者は時効取得された残地に利害が認められるので当事者適格は認められるという考え(京都地判昭四二・二・七判タ二〇四・一二八)とがありました。
 このような状況のなかで、最高裁昭和五八年一〇月一八日判決(民集三七・八・一一二万は、一方の土地のうちの境界の一部に接続する部分を他方の土地所有者が時効取得した場合について、時効取得のあった部分の境界についても当事者適格か認められると判示しました。その理由とするところは、残地があること、時効取得された土地の範囲を明らかにするためには境界の確定が必要であり、それがなければ紛争の抜本的解決ができないこと、時効取得された土地を他へ譲渡したりするためには分筆が必要だが、そのためには境界の確定をしなければならないということでした。
 これらの理由は、残地がある限り、時効取得された土地が境界の全部に接している場合にも該当しますから、この場合も当事者適格は認められます(最判平七・三・七民集四九・三・九一九)。
 ただ、全部の時効取得がある場合は、一方が所有者でなくなりますので、当事者適格は認められません(最判平七・七・一八裁時一一五一・三)。
 以上からすれば、全部の土地を時効取得している場合は、これを主張して訴えの却下を求めればよいのですが、一部の場合は当事者適格が認められるので、時効取得を主張しても却下はしてもらえません。
 ただ、却下がある場合にしろ、本案の裁判が行われるにしろ、先程も述べましたように境界確定訴訟は、所有権の確認とは無関係ですので、時効による所有権の確認なり登記移転の裁判はしてもらえません。そこで、これらの裁判を求めるなら、別訴なり反訴によって、これらの裁判を求める必要があります。
 [時効の中断]
 今までとは遂に、原告が境界確定の訴えを提起したときに、被告に生じている取得時効の進行が中断されるかについて検討してみます。
 先述の通説・判例の立場によれば、境界確定訴訟は所有権の確認を目的とするものではありませんし、当事者の申立てにも所有権の主張があるものでもありません。とすれば、理論的には、所有権の主張(権利主張)がないのですから、境界確定の訴えを提起しても取得時効の中断の効果は生じないのではないかという疑問が生じます。しかし、境界確定の訴えを提起すれば、所有権確認の訴えを提起しなくても、時効は中断するとされています(大判昭一五・七・一〇民集一九・一六・一二六五)。その理由は、正当な権利者を保護する必要があり、時効中断事由の裁判上の請求(民一四七条一号)というのは、法の趣旨からして、時効によって失われる権利それ自体について裁判を求めた場合だけに限定する必要はなく、境界確定の訴えについてみれば、所有権確定の効力はなくても、境界の確定をするのだから、これによって占有が境界を侵している事実が判明するので、占有という事実状態を根拠にしている取得時効は中断されてよい、ということです。

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