境界確定の資料不足の場合の解決手段

 隣の甲さんが、ブロック塀を建てようとしていますが、その位置が、私の土地に越境しているように思えます。お互いに古い測量図を持っていますが、相違しており、公図ともかみ合いません。甲さんの主張線を認めると、私の土地は公簿面積より少なくなりますが、私の主張線を認めると、遂に甲さんの土地が公簿面積より少なくなります。境界付近は未刊用地で、雑草が生えるにまかせていた所で、境界の目印もありません。弁護士に相談したところ、双方とも証拠となる資料が不足しているのだから、互譲の精神で話し合いで解決しなさい、それができないなら、まだ塀も建っていないのだから、境界確定訴訟で裁判所に境界を決めてもらいなさい、と言われました。

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 弁護士の回答は、資料不足の場合の解決策を示唆しています。
 境界争いがある場合の訴訟上の解決策には、所有権確認訴訟と境界確定訴訟とがあります。所有権確認訴訟の場合は、通常一般の民事訴訟ですので、あなたの主張する境界が証拠によって認められるか否かだけが判断されます。その結果、あなたの主張する境界が証拠によって認められなければ、仮に裁判所があなたの主張する境界よりももっと有利な線を境界と認定しても、あなたの請求は棄却されてしまいます。他方、境界確定訴訟では、証拠資料が不足していても、裁判所は請求を棄却することはできず、必ず境界の確定をしてくれます。ですから、資料不足の場合は、いたずらに自己の主張に固執するのではなく、まず話し合いで解決し、それができなければ、境界確定訴訟で裁判所に決めてもらった境界で納得するのが、賢明な解決策だということです。
 [境界の二つの意味]
 境界という場合には、二つの意味があります。一つは、土地所有権の及ぶ範囲を画する線の意味です。これが、通常一般に使われている意味の境界です。これを、「私法上の境界」といいます。これに対し、「公法上の境界」と言われるものがあります。これは、切れ目なく連続する土地をそれぞれ一個の物として区画、特定する手段として、地番を付された一筆ごとの土地の区画線のことで、言わば地番と地番の境のことです。法律で境界と言う場合は、この「公法上の境界」のことを言います。「私法上の境界」は、個人が自由に処分することが認められている所有権が対象ですから、個人の意思で移動させることができます。しかし、「公法上の境界」は、公の制度として定められた線ですから、個人の意思によって移動させることはできませんし、移動もしません。このように、「私法上の境界」と「公法上の境界」とは別のものです。ただし、「公法上の境界」を設けて土地を区画、特定したのは、もともと、これによって土地を個人の所有権の対象にするためですから、特別な場合、例えば一筆の土地の一部が売買されたり時効によって取得されたりした場合以外は、一致すべきですし、また一致しています。
 [所有権確認訴訟と境界確定訴訟]
 境界争いがある場合に考えられる訴訟は、右の二つの境界に対応して、二つの形態があります。
 「私法上の境界」を対象とするのが所有権確認訴訟で、「公法上の境界」を対象とするのが境界確定訴訟です。
 所有権確認訴訟は、通常一般の民事訴訟です。ここでは、裁判所は、原告の主張する境界が証拠によって認められるか否かだけを判断するだけで、それ以上の判断はしません。このため、原告の主張する境界が証拠によって認められなければ、極端な場合、裁判所は、もし仮に原告の主張する線よりももっと有利な位置に境界線を認定しても、原告の請求は棄却してしまいます。ですから、所有権確認訴訟を提起するなら、自分が主張する境界線が証拠によって裏付けられているか否かを十分に判断した上でないと、訴訟を提起した目的を達成できない恐れがあります。
 他方、境界確定訴訟は、「公法上の境界」を対象として、これが不分明となって争いがある場合に、裁判所によって、これを確定してもらう裁判です。
 [境界確定訴訟の特色]
 境界確定訴訟は、旧裁判所法にあった「不動産ノ経界(境界)ノミニ関スル訴訟」として認められていたもので、旧裁判所法はなくなりましたが、現在も判例、学説一致して認めている訴訟の形態です。これは、右で述べましたように「公法上の境界」が不労明になって争いがある場合に、裁判所によって確定してもらう裁判です。この裁判は、個人の意思によって移動することのない、客観的に存在する、公の制度としての境界を確定するものですから、訴訟という形態をとっていますが、原告の主張する境界の当否を判断する本来の訴訟ではなく、端的に境界を決めてもらう制度です。このため、境界確定訴訟は、実質は「非訟事件」である、と言われています。ですから、境界確定訴訟には種々の特色がありますが、本問に関連して言えば、裁判所は、証拠となる資料が不足しているからと言って、原告の請求を棄却することはできず、必ず境界を定める裁判をしなければならないのです。裁判所が境界を定めることによって紛争が解決することになります。
 [確定方法の順序]
 境界確定訴訟では裁判所が境界を決めると言っても、まずは直接的に境界を認定できる証拠によって客観的に存在する境界を発見するように努めなければならないことは切論です。これが第一段階です。
 直接的に境界を認定できる証拠がないときは、係争地域の占有状態、隣接園地の公簿面積と実測面積との関係を主にし、このほか公図その他の地図、境界水又は境界石、場合によっては林相、地形等を総合判断して、真実の境界線に最も近いと判断される線を境界と定めます。
 これによってもなお境界が明らかにならない場合は、公平の原則に従って境界を定めることになります。この場合は、主に、争いのある地域を平分したり、公簿面積の割合で按分したり、あるいは双方の主張線の中間をとったりしています。
 [本問の場合]
 本問の場合、占有状態、公簿面積との関係、公図や測量図、境界標の有無等、いずれをみても、甲さん、あなたとも、それぞれの主張を決定ずける証拠はないように思われます。ですから、所有権確認訴訟では、甲さん、あなたのいずれが原告となっても、どちらの主張も認められず、訴訟を提起した目的をうまく達成できないようです。ですから、訴訟を提起するなら、境界確定訴訟によるほうがよいと思われます。ただし、この場合、裁判所が決めてくれる境界で納得する必要があります。
 もし既にブロック塀が設けられていて、この撤去を求める必要がある場合は、所有権を主張する必要がありますから、(所有権確認である)ブロック塀の収去土地明渡請求をしなければなりません。
 なお、あなたと甲さんとの境界争いも、他の境界争いの多くと同様に、お互いに使用できる土地の範囲である所有権の及ぶ範囲をめぐっての争いのようです。このような場合は、「私法上の境界」について合意ができれば争いは解決するのですから、まず、これについて話し合いで合意することが一番早い解決ができます。この合意による境界は、後で「公浩士の境界」が判明して、これと違っていたとしても、「私法上の境界」に関する合意として、その効力が認められます。弁護士のまず話し合いで解決しなさいと言う回答は、この意味です。

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