囲繞地通行権を放棄させることはできるか

 袋地のために土地の一部を通路として利用させています。近々家を増築したいので、この通路を廃止しようと考えています。そのかわり袋地の所有者にはお金を支払うか、場合によっては袋地を買取ってもよいと思っておりますが、その通行権を放棄してもらうことはできないでしょうか。

スポンサーリンク

 囲繞地通行権は袋地の所有者においても放棄できない権利です。既存の通路を廃止しようとするときは、新たに通路を確保して通路変更の合意をするか、袋地そのものを買い取ってしまうことが必要です。
 周囲を他人の土地に囲まれているため直接公路に出ることのできない土地を袋地といい、その周囲の土地を囲繞地といいます。
 袋地の所有者には、公路に出るまでの間、この囲繞地を通行する権利が認められています(民二一〇条)。この囲繞地を通行することのできる権利を囲繞地通行権といいます。袋地の所有者に囲繞地通行権が認められる理由は、公路との往来のために周囲の土地を通行することが認められないと、袋地の利用がはかれないからです。袋地の所有者が公路に出るためには、囲繞地所有者から通行地役権(民二八〇条)の設定を受けたり、通路部分について賃貸借契約(民六〇一条)や使用貸借契約(民五九三条)を結んでその利用権を取得することも考えられますが、いずれも囲繞地所有者の承諾が必要です。しかし、囲繞地所有者が承諾しないかぎり袋地と公路との往来ができないとするときは、袋地の利用は著しく制限されることになり、ひいては限られた土地の有効利用という公益的利益も害されることになりかねません。このため、公益的見地から袋地の土地利用を確保するために、民法は袋地の所有者に法律上当然に囲繞地を通行することを認めたのです。これが囲繞地通行権です。
 このように囲繞地通行権は、袋地と囲繞地という関係にあれば袋地の所有者に当然に認められる権利です。しかし、無制限に認められるものではありません。即ち、袋地の所有者は公路へ出るためには何処でも自由に通行できるものではなく、袋地所有者のために必要にして囲繞地にとって損害が最小限になるような場所と方法においてのみ囲繞地を通行することが認められるのです(民二一一条)。そして、袋地の所有者は、一定の場合を除いては、囲繞地に生じた損害を補填するために償金を支払わなければなりません(民二一二条・二一三条)。つまり、袋地の利便を確保するという公益的見地から囲繞地所有権に制限を加える一方で、袋地所有者は通行権の負担によって囲繞地の蒙る損害を補填することとされており、袋地と囲繞地の利害の調整がはかられているわけです。
 囲繞地通行権は、以上に述べたとおり公益的見地から認められた権利です。しかしながら袋地所有者が現実にこれを行使するか否かは、一般の契約上の権利と同様に袋地所有者において自由に決定することができます。しかし、袋地所有者が現実には袋地を利用していないために、囲繞地を通行していない場合でも、囲繞地所有者は通行権の負担を免れるわけではありません。袋地所有者はいつでも袋地を利用することができるからです。つまり、通行権が現実には行使されていなくても、潜在的には通行権の負担を受けているわけです。このため、袋地所有者は通行の有無に拘わらず、囲繞地所有者が通行権の負担によって蒙る損害があればこれに対しては償金を支払わなければなりません。そこで、これを放棄してしまうことができないかが問題になります。
 元来、囲繞地通行権は、袋地の利便を確保することが公益的見地から望ましいという理由で法律上当然に認められた法定の通行権です。したがって、袋地所有者の処分しえない権利とみるべきですし、なによりも利用しえない土地を生ずるという結果は相当ではありません。それゆえ、囲繞地通行権の放棄は認められないというべきでしよう。
 判例のなかには傍論的に逆の趣旨を述べたものもありますが(徳高地判昭二六・一一二七下民二・一一・一三五九)、概ね放棄することを認めていないといってよいでしょう(東京地判昭四二・一一七判タ二一五・一七一、神戸簡判昭五〇・九・二五判時八〇九・八三)。
 もっとも、囲繞地通行権の放棄が認められないとしても、一定の期間に限って囲繞地通行権を行使しない旨を袋地所有者と囲換地所有者とが合意することまでは禁じられていないと考える余地はあるでしよう。袋地所有者にとっては通行料の支払を免れるという利益もあり、また、袋地をどのように利用するかは本来的には袋地所有者の自由です。したがって、袋地所有権に対するこの程度の制限であれば、公序良俗(民九〇条)にも反しないと考えられるからです。但し、この合意は、債権的合意ですから、その効力は袋地の譲受人には当然には及ばないとみるべきです。
 袋地所有者の有する囲繞地通行権は公益的見地から法律上当然に認められた権利ですから、その権利を放棄することは認められません。囲繞地内にある通路を廃止しようとするときは、別に通路を確保するか、袋地そのものを買い取ってしまうことが必要になります。なお、別に確保した通路が袋地にとって利便を増す場合は別としても、それ以外の場合には囲繞地通行権を制限する結果になることも考えられます。このため、この場合には単に代替通路を設けるだけでは足りず、通路変更についての袋地所有者の承諾を得る必要があることに注意してください。

copyrght(c).土地不動産の有効活用.all; rights; reserved

家屋を新築するときは、境界からどれだけ離すべきか
自己所有地の道路後退部分に木を植えてよいか
敷地が防火地域とそうでない地域にまたがっている場合、境界線からどれくらい離せば良いか
境界線に接近した建築工事は止めさせられるか
池や溝は境界線からどれだけ離せばよいか
建物の一部が越境している場合はどうしたらよいか
不動産業者の責任
隣接地の所有者は建築確認の取消しを請求できるか
用途地域指定に違反した建物の建築確認の取消し
境界紛争に共通的な予防法はなにか
宅地の予防方法は
農地の境界紛争の予防方法
山林、原野の境界紛争の予防方法
溜池の境界紛争の予報方法
境界確定訴訟と所有権確認訴訟の違い
境界確定訴訟の当事者は所有者に限られるか
境界確定訴訟で取得時効の主張をするとどうなるか
境界確定訴訟の訴え提起の手続き
境界確定訴訟において和解はできるか
境界確定の証拠方法には何があるか
公図はどの程度の証明力を有するか
公簿面積の証明力
境界をめぐる調停の申立てはどのように行うか
境界の鑑定にはどのような方法があるか
境界鑑定の手順
その他境界鑑定に関する問題点
公図分析法とは
境界鑑定の物証法とは
人証法による境界鑑定
境界確定の資料不足の場合の解決手段
道路とは
はみ出し自動販売機の設置
国有地を市町村道として無償使用している場合と住民訴訟
買った土地が市道になっているが使用できるか
私有市町村道の水道管埋設の方法
私道とはどのようなものか
私道通行権にはどのようなものがあるか
私道を無償通行できるときはどのような場合か
私道は一般の第三者も自由に通行できるか
公道・私道の調査はどのように行うか
分譲地内の共有道路通行と賠償請求の可否
私道は所有者の意思で変更、廃止できるか
敷地内の公道や水路の取扱い
囲繞地通行権とは
袋地とは
準袋地とは
囲繞地通行権における公路とは
通路の幅員はどれくらい認められるか
囲繞地通行権の妨害と損害賠償請求
囲繞地通行権者は自ら通路を開設することができるか
通路開設の費用は誰が負担するのか
囲繞地通行権による通路は袋地所有者以外の者の通行を禁止できるか
囲繞地通行権者が通行できる場所はどのように決めるか
通路の所有者は通路場所を変更できるか
囲繞地通行権の変更は可能か
囲繞地通行権に基づいて通路にガス管を設置できるか
国有地に囲繞地通行権を行使できるか
行政財産について囲繞地通行権をどのように明示してもらうか
借地人に囲繞地通行権は認められるか
借地人が借地を買取った場合の囲繞地通行権
袋地の賃借人の囲繞地通行権は袋地所有者が公路に通じる土地の所有権を取得すると消滅するか
借家人に囲繞地通行権は認められるか
袋地に無断で住みついた者にも囲繞地通行権は認められるか
袋地所有者は登記が必要か
すでに別の通路がある場合は他人の土地を通行できないか
囲繞地通行権に基づく通路の数
袋地所有者は自動車による通行は認められるか
大型農機の通行を確保するための囲繞地通行権は認められるか
下水溝が埋め立てられて通路となった場合の囲繞地通行権
袋地所有者は通行料の支払を要するか
袋地所有者が無償で通行できるのはどのような場合か
無償囲繞地通行権者が替わった場合に通行料の支払はどうなるか
無償の袋地通行権は地主が替わった場合はどうなるか
共有地の分割により袋地となった場合の通行権
土地の一部譲渡により袋地となった場合の通行権はどうなるか
数筆の土地の譲渡により袋地が生じた場合の通行権はどうなるか
一団の土地が競売により袋地になった場合に無償通行権が認められるか
分割譲渡後に袋地となった場合に袋地を譲り受けた者の通行権
分割された土地の全部が同時に譲渡された場合に袋地を買受た者の通行権はどうなるか
隣接する土地の一部を買い受けた場合に袋地通行権が発生するか
囲繞地通行権が消滅することはあるか
囲繞地通行権を放棄させることはできるか
囲繞地通行権は話合いで廃止できるか
囲繞地通行権を確定する法的手続きはどのようにするか
土地不動産の有効活用の実務
都市計画の目的と基本理念
開発許可制度
第一種市街地再開発事業の測量と調査の手順
土地区画整理事業とは
借地借家法の狙い
借地期間を定めない場合
借地契約解除をする際の地主の留意点
建物を賃借するときの法律
家主の変更と借家権の承継
借家権の相続
抵当権設定後の土地の短期賃借人に建物買取請求権は認められるか
建物の二重賃借人間の優先関係の判断基準
境界とは
通行地役権を設定するには
分譲マンションの共用部分の修繕費用の分担