地主の変更と正当事由

 青果菜を営んでいますが、現在の店舗の敷地をAから購入した際、地続きであることから、借地人Bが居住している借地部分もあわせて購入しました。借地契約の期間が満了したら、この土地を明け渡してもらい、店舗を拡張したいと考えています。地主の変更は、正当事由の有無に何か影響を与えるのでしょうか。

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 地主が変更した場合には新地主からの更新拒絶は認められないとか、またはその逆に更新拒絶が認められるとか、地主の変更自体が直接正当事由の有無に影響を及ぼすということはありません。ただ、地主の変更が借地人にとって不利に働くのは困ります。したがって、地主の変更があったというような事情は、借地に関する従前の経過として、正当事由を判断するうえで十分斟酌されることになります。
 地主が変更した場合は、旧地主ではなく、新地主について正当事由の有無が判断されます。新地主が、単にその借地部分を転売するだけの目的で土地を購入した場合などには、実際にその場所を生活の基盤としている借地人と比べて、新しい地主の借地部分に対する土地利用の必要性は極めて低いと考えられます。したがってそのような場合は、新地主と借地人双方の土地利用の必要性を判断して、新地主に更新を拒絶する正当事由はないと結論づけられるでしょう。
 土地の転売を目的として所有権を取得した土地ブローカーの例について、新地主が宅地建物のブローカーで、通常人より宅地建物を比較的入手しやすい立場にあること、明渡しを求めている土地の転売交渉をしていることから、借地に対する土地利用の必要性が少ないとして新地主側の正当事由を認めなかった判例があります(鳥取地判昭25.7.5下民集1巻7号1021頁)。
 新しい地主にとって、その土地を取得する強い必要性があるということで、更新拒絶の正当事由ありと判断され、借地人が立ち退きを要求されるようなことがあっては、安定した借地関係は望めません。そもそも地主の変更という事態は、借地人側のあずかり知らぬところで生じた事情ですから、借地人側に不利に働くことは、不当といえるでしょう。このような事情は、借地に関する従前の経過として、借地人に不利に働かないよう十分に斟酌されます。
 例えば、新地主は借家で牛肉商を営み、店舗がかなり手狭であるうえに、家主から立ち退きを迫られているという、かなり強度の必要性が認められたにもかかわらず、借地人であるバス会社が借地を明け渡して他の土地に車庫を作ることは、大いに不経済であるとして、新地主に更新拒絶の正当事由はないと判断したものがあります(東京高判昭31.9.11東高民報7巻9号203頁)。
 しかし、借地人から土地を明け渡してもらい、自らが使用する目的で購入したなど、新しい地主にもその土地に対する必要性が認められる場合もあります。特殊な例ですが、借地人である東京都の建てた都営住宅の借家人が底地を買い取り、都の更新請求を拒絶した例で、新地主である借家人に正当事由を認めたものがあります(東京地八王子支判昭54.3.28判時955号86頁)。
 正当事由の有無の判断にあたり、新地主と借地人のそれぞれについてその他の事情を比較検討していくことは、一般の地主がする更新の拒絶の場合と同じです。
 新地主が現在の店舗の敷地購入の際に、地続きであることから借地部分ちあわせて購入したにすぎず、この時点では借地の必要性はなかったといえるでしょう。しかし、店舗を拡張する必要性があるために借地部分が必要となったということですので、事業拡大の要請がどれほど必要なものか、店舗拡張以外に方策はないのか、店舗を他に移転して拡張する方法など、地主側の努力が多分に必要となるでしょう。
 また、自己使用を目的とする場合であっても、それが本問のように営業用に使用する場合は、その土地を居住用として使用する場合に比べ、他に代わりの土地を求めやすいという意味で自己使用の必要性が低いと考えられるため、正当事由は一般的に認められにくいようです。
 本問の場合、借地人は居住用として土地を使用しているようですから、借地人の年令や収入、家族構成、立ち退き先があるか否か、立ち退きによってこうむる経済的負担など、諸々の事情を検討する必要があるでしょう。新地主が借地人に代替地を提供したり、立退料を交付したりして、正当事由が認められるよう努力することも可能ですが、本問の地主については正当事由が認められにくい状況ではあるようです。

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