相続税の延納と物納

 相続税は、納期限までに金銭で一時に納付することが原則ですが、所定の期限までに一時に納付することが困難である場合を考慮して、一定の要件を備えた場合には、所定の手続きにより通常5年以内の年賦延納をすることが認められています。
 この場合、相続または遺贈により取得した財産で相続税額の基礎となったものの価額の合計額のうちに不動産、不動産の上に存する権利、立木、事業用の減価償却資産および同族株式の価額の占める割合が10分の5以上である場合には、不動産等の価額に対応する相続税額については15年以内、その他の財産の価額に対応する相続税額については10年以内の年賦延納が認められています。
 延納が認められるためには、次の要件のすべてを満たす必要があります。
 納付すべき相続税額が10万円を超えること、納期限までに、または納付すべき日に金銭で納付することが困難であること、延納税額に相当する担保を提供すること、納税義務者の申請が期限までにあること。
 なお、「納期限までに、または納付すべき日に金銭で納付することが困難であること」という要件は、延納にあたって物納申請と同じような制約がもうけられました。申請は金銭で納付することを困難とする額を限度として延納が認められます。
 また、上記の担保の提供については、延納税額に見合う担保の提供が必要とされており、担保の種類は国債、地方債、土地、建物、有価証券などに限定されていますが、延納税額が50万円未満で、かつ延納期間が3年以下である場合は、担保の提供は不要とされています。
 延納の許可を受けた後において、バブル経済の崩壊等によって地価が著しく下落し、相続を受けた財産の譲渡が、当初の計画どおりにすすまないため、一時的に資金繰りが悪化することが認められます。
 土地取引の停滞化によって、延納を許可された分納税額について納付が困難となるケースです。税制改正によって「特例物納」制度が講ぜられ緊急避難的な特例措置が実施されたところです。こうした特例物納は、打ち切られましたが、分納税額納付困難の経済情況は変化していません。
 こうした背景のもとに、延納の許可を受けた納税者は、その後の経済情勢の変化に伴い分納額の納付が困難になった場合、その履行が一時的な資金繰りの悪化によるものであるときは、延納の条件を変更して分納期限の延長、再延長が許可されることとして取扱われます。
 相続税は、相続や遺贈によって取得した財産やその相続人が以前から所有していた財産のうちに預貯金等の現金がなく、また将来的にも現金を調達することができないような延納によっても納付できない場合に限り、その現金に代えて物納することができます。物納の対象となる財産は、相続税の課税価格の計算の基礎となった財産です。
 しかし、この納付方法は従来あまり用いられていなかったのが現状です。その理由の1つとして、納税者側に「物納は損である」という意識が根底ではたらいている事が考えられます。一方、受け取る側の税務署にしても物納には消極的にならざるを得ません。物納処理には、繁雑な手続きを要するからです。同じ様に引き続き管理、処分等を行っていく財務局も、特に換金性に乏しい貸宅地などは極力引き受けたくない、と考えていることはいうまでもありません。現に換価の見込みがある財産に物納は限られていました。
 このように、納税者および税務署の双方から毛嫌いされていた物納ですが、バブル経済期の地価高騰と、その後の地価急落や不動産取引の減少により、相続税の路線価評価で土地が売却しづらい今日の経済現象下では、この制度の本来の意義である「売り急ぎによる納税者の不利益を防ぐ」趣旨が納税者サイドの共感を呼び、納付対象としての物納が大きく注目されています。
 財産評価が公的評価制度、すなわち公示価格の80パーセントのレベルで評価される現状では、納税者にとって見直すべき納付手段であるといえます。延納による現金納付に比較して、物納は手続きが複雑な分、処理に手間がかかるのは当然ですが、その処理時間を逆に有効利用することも可能なわけです。適当な売却先を見つけ出したり、財産としての価値を高め、物納収納されるような状態をつくりだすことは、財産を保有する資産家にとって、財産運用の現状を反省し、将来の納税対策を考えるための準備期間と言えるのです。
 物納が認められるためには、次の要件のいずれをも満たす必要があります。
 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があること
 納付義務者の申請があること、この場合の、納付することが困難かどうかの判定は、単に相続時点の状況で判断するのでなく、納税者自身の近い将来における金銭収入をも考慮して判定することとされています。すなわち、租税は金銭納付が原則であることや、長期間にわたる延納制度が認められていることから、貸付金の返還、退職金の給付の確定など、近い将来において確実と認められる金銭収入をも考慮して判定されますので、延納により納付できる場合は、物納は認められないことになります。
 物納に充てることのできる財産は、納税義務者の課税価格計算の基礎となった財産(当該財産により取得した財産を含む)で相続税法施行地にあるもののうち、次にあげる「管理または処分をするのに不適当」でない財産です。
 なお、原則として物納にあてることのできる財産が2種類以上ある場合その優先順位は次のようになっています。
 1位 国債、地方債、不動産、船舶
 2位 社債、株式、証券投資信託または貸付信託受益証券
 3位 動産
 ただし、下記のような場合はその限りではありません。
 その財産を物納すれば、居住、営業を継続して通常の生活を維持するのに支障を生じるような特別の事情がある場合。
 優先順位の財産を物納にあてるとすれば、その財産の収納価額がその納付すべき税額を超える場合など、適当な価格のものがない場合。
 また、相続税額を超える価格の財産による物納は、原則として認められませんが、納税義務者について他に物納にあてるべき財産がなく、かつ当該財産を物納する以外には納付が困難と認められる場合は、当該財産による物納も可能となり、当該財産の収納価額と相続税額との差額は、金銭によって還付されます。
 物納財産の収納価額は、原則として課税価格計算の基礎となったその財産の価額ですが、収納時までにその財産の状況に著しい変化を生じた場合、税務署長は収納時の現況によりその財産の収納価額を定めることができることとされています。
 賃借権、その他不動産を使用する権利の目的となっている不動産の物納の許可を受けた後、物納ではなく金銭による一時納付または延納の方法に拠りたい時は、物納の許可を受けた後1年以内に限り、物納を撤回することができます。ただし、当該不動産が換価されていた時、または公用(公共)の用に供されている時もしくは供されることが確定している時は、撤回は認められません。
 納付にあたって物納申請を行い、物納許可を受けた土地のうちから一部を物納申請の撤回手続きにより取り下げを行う「部分物納撤回」が納付戦略としてとりあげられています。
 物納については、金銭による納付を困難とする金額を限度として許可され、物納申請税額を超えない価額の財産によることが原則になっています。
 しかしながら、相続税額と物納申請財産の価額が一致することは稀であり、また物納申請財産以外に充当する財産がなく、しかもその財産を物納する以外に納付が困難なケースも認められ、相続税額を超える価額の財産による物納(超過物納)が生じてきます。こうした超過物納により、物納財産の収納価額と相続税額の差額は金銭で還付されることが実務として多く認められるようになっています。
 原則にしたがって物納申請税額に見合う土地にその規模を調整するには、土地の分割、併合を行わなければなりませんが、分筆、分割の結果、残地部分が不整形地や単独で利用が不可能な袋地になる可能性があり、相続人にとっても、また収納側にとっても管理や処分がまったく不可能となるケースがあるからです。こうした大都市部の物納財産については、分割前の土地を一括して収納することによる金銭の還付、すなわち超過物納が認められることになっています。
 超過物納が行われた場合、超過分については、過誤納金として金銭で還付されますが、この過誤納金は、譲渡所得として課税対象になるものの、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例、短期保有土地等を譲渡した場合の税率の特例、相続財産にかかる譲渡所得の課税の特例など、通常の譲渡所得の課税に比べてかなり優遇措置が図られています。
 バブル崩壊以降の土地取引の冷込みの中で土地の売却は困難なのが実状であり、納税資金のそうした点からも、超過物納についての改善は、相続対策と、その資金繰りにおいて有用な手法を生み出しつつあります。

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